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2017/12/14

今月7日、外務省は、旅券法に基づき、シリアへの渡航を計画していた50代のフリーカメラマンの男性に対し、パスポートの返納を命じて男性の渡航を阻止したことが報道されています。

旅券法19条1項は、「外務大臣又は領事官は、次に掲げる場合において、旅券を返納させる必要があると認めるときは、旅券の名義人に対して、期限を付けて、旅券の返納を命ずることができる。」と規定されており、その4号に「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合」が挙げられています。

本件は名義人の生命保護を理由としての初めての措置で、これに対しては海外渡航の自由を侵害しており、憲法違反ではないかとの意見が出されています。

外国へ一時旅行する自由は、判例上、憲法22条2項の「外国に移住する自由」に含むと解されています(最高裁判所判決昭和33年9月10日・帆足計事件)。

もっとも、外国旅行の自由も無制限のままに許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解されています。旅券法に規定された制限は合理的な制限の範囲内であると考えられます。

そうすると、本件で問題となるのは、今回の措置が「旅券名義人の生命の保護のために渡航を中止させる必要があると認めるとき」に該当するか否かですが、現在のシリア国内の内戦やイスラム国の状況、特にイスラム国が日本人をテロの標的とする旨を明言していることを勘案すると、本件を憲法違反と争うことは難しいと思われます。

現在、私達は当たり前のように海外旅行を楽しんでいますが、観光目的の海外旅行が認められたのは、今からわずか50年前の1964年(昭和39年)4月1日からで、当時は一人年1回500ドルまでという外貨持出規制がありました。

鎖国の歴史をもつ日本にとって、海外渡航の自由は、先人たちの夢と希望であり、子どもたちの未来でもあります。今の私たちは自由や権利という剣を振りかざすのではなく、大切にかつ責任を持って守って行かなければならないと思います。

海外旅行の強制的な制限